カール・ラーションと妻のカーリンについて

 
 カール・ラーションの生い立ち
 

今ではストックホルム屈指の観光地であるガムラスタン(古い街並みを残してある地区)の「プレースト・ガタン78番地」の貧しい家庭で1853年に生を受けました。通っていた貧民学校の教師に絵の才能を認められたことで本格的に絵を学ぶ機会を与えられます。
生家の外壁にはパレットを持った姿のレリーフとその下に控えめに「カール・ラーションの生家である」と書いたプレートが貼ってあります。
私はストックホルムを訪れるたびに、まずはご挨拶に行きますが、ここが生家であるということはあまり知られていないようです。
2011年9月たまたま日本からのテレビ局のクルーがこの家の左側のガムラスタンで一番狭い路地を撮影しているところに出会ったので、「あのう、この家カール・ラーションの生家なんですけど…」と言いましたが「だそうですね」と言って、さっさと機材を片付けて行ってしまったのには、がっかりしました。

ストックホルムの美術学校を終えた後、画家としての更なる研鑽を積みたいと考えたカールはパリへと旅立ち、二夏をバルビゾンで過ごした後、1882年北欧の画家仲間とともにパリの南西約70㎞の小さなグレー村(Grez-sur-Loing)に腰を落ち着けることになりました。留学の費用など「ろくでなし」の父親に出せるはずはなかったのですが、ポントゥス・フュステンベリというイェッテボリの裕福な商人がパトロンになってくれていました。
中世の面影を残す美しいグレー村にはアメリカ、カナダ、北欧の画家が集い、交流する場となっていましたが、実は明治時代の日本からの留学生たちもここを拠点にしていました。黒田清輝が拓いた道により、その後日本の外光派画家たちの聖地ともいうべき村になりました。それ故に、ここには「カール・ラーション通り」とともに「黒田清輝通り」もあるとのことです。

 ストック本ルム ガムラスタン プレーストガタン 78番地 生家の壁のレリーフ(パレットと絵筆を持ったカール・ラーション)
2010年10月2日撮影

ストックホルム ガムラスタン プレーストガタン78番地に現存するカール・ラーション生家
ストックホルムのガムラスタンのプレースト・ガタン
78番地に現存するカール・ラーションの生家

2012年6月9日撮影


2012年版
カール・ラーション・ゴーデン案内書

カーリンとの出会い

カール・ラーションはグレー村に滞在中、それまでの油彩画よりも彼の画風に合った水彩画法を身に付けましたが、それがのちに大きく飛躍するきっかけになりました。

スウェーデンからフランスへ留学していた4人の女子留学生の一人Karin Bergöö(カーリン・ベリヨー)と再会したのもグレー村でした。
カールの頭の中からは「ジャガイモ鼻の子牛の瞳の乙女」の姿が寝ても覚めても離れませんでした。

カール・ラーション・ゴーデン入口にある
カーリンの父Adolf Bergöö
(アドルフ・ベリヨー)の銅


 二人は一旦スウェーデンに帰国後1883年に結婚し、ストックホルムに住まいを持っていましたが、1888年ストックホルムから200km余り北西にあるダーラナ地方のスンドボーン村の「リラ・ヒュットネース(岬の小さないなか家)」をカーリンの父親アドルフ・ベリヨーから譲り受けました。最初は夏だけの別荘として使っていましたが、増築に増築を重ね、ついに1901年には一家で引っ越してきました。
ゆったりとした川の流れに沿った限りなく静かで美しいスンドボーン村のたたずまいは、二人が出会い恋に落ちたグレー村を髣髴とさせるものがあったから本拠地にしたに違いありません。

ここには、自身も芸術家である妻カーリンの協力のもと作り上げた最高傑作「カール・ラーション・ゴーデン」が当時の姿そのままに残っています。子だくさんの大家族のにぎやかな暮らしぶりが実感できる「リラ・ヒュットネース」が残っているからこそ、カール・ラーションの作品の説得力もあるのです。まさにカーリンがいたから、カール・ラーション・ゴーデンはできたのだし、かわいらしい大勢の子供たちの笑い声に満ちたこの家庭があったからこそ彼を世界的に有名にした画集「Ett Hem(我が家)」出版にも至ったのだ、と私は確信しています。

スウェーデン王立美術アカデミーに反旗を翻し、ストックホルムでの要職も辞し、グレー時代からの親しい友人であり芸術家仲間であった劇作家ストリンドベリとも仲たがいし、ストックホルムの国立美術館の階段室壁画問題でも精神的にかなり追いつめられていた晩年のカール・ラーションの心は景観も住人も、のどかで優しいダーラナ地方を常住の地に定めたことでどんなにか癒されたことでしょう。

2012年6月スンドボーン村に滞在中、孫カーリン夫妻と散歩をしていると、出会う人みなから「Hej!( ヘイ! こんにちは!)」と声をかけられました。
「有名なカール・ラーションのお孫さんだけあって、みんな知り合いなんだなあ」と思っている私の心中を察したかのように、「スンドボーンの人たちは誰でもでもああやって挨拶をし合うものなのよ」と孫カーリンさんが教えてくれました。カール・ラーションが暮らしていた時代もそうだったようで、カールの自伝にも「ここスンドボーンの暮しは平穏で素晴らしい。私が求めていたのは名誉ではなく、愛なのだ」という記述が見られます。

スンドボーンをついの棲家としたことは「芸術や文化というものの発信地はなにも大都会である必要はないのだ!」という強烈なメッセージを発信することにもなっていると思います。カール・ラーション・ゴーデンの内装は時代を先取りした斬新なものが数多くあり、ウィリアム・モリスやジョン・ラスキンらがイギリスで始めたアーツ・アンド・クラフツ運動と思いを同じくする部分も多々あります。まさに「用の美」追求の模範を片田舎スンドボーン村からスウェーデン国内のみならず、世界中に発信したのだと言っても決して過言ではないでしょう。
限りなく静かで美しく優しいSundborn村
2012年6月撮影



リラ・ヒットネースの「客間」
実際は居間でもあり、カール・ラーションは左の壁際のソファに寝そべるの好きだったそうです。
(photo from the postcard of C.L.G.)


カール・ラーションがスンドボーンの家と
家族を描いた画集「ETT HEM(私の家)
C.L.をマルで囲ったサインは日本画の落款からヒントを得たものです。この本の中の24枚の水彩画はトップページからご覧になれます。
(ストックホルムやイェッテボリの古本屋で探しても探しても見つけられなかったボニエル社発行の初版本を2012年6月ゴットランド島の古本屋さんで見つけました)


この本の中に描かれている24枚の水彩画は「カーリン&カール・ラーション友の会」のトップ・ページの中でご覧になれます。

Göteborg 美術館階段室に展示して
ある「小さなスサンヌ」
(Foton:Yoshiko Miyata/juli.30,2014)

「小さなスサンヌ」 というこの作品はもともと
カール・ラーションの「ある宮廷画家のアトリエ」という大作で、パリのサロンに応募した意欲作でした。
ところが敢え無く落選してしまい、腹を立てたカールは切り刻んでしまい、残った部分に新妻カーリンと生後間もない長女スサンヌを描き加えました。
その結果、カールが多大なる影響を受けた日本の掛け軸に似た縦長の絵になりました。
スサンヌの足元に転がるちょんまげ姿の日本人形と共にジャポニズムの影響が見て取れます。 

 

"Lilla Suzanne"
(från:≪Carl Larsson i Göteborgs konstmuseum≫ s.11
スサンヌの足元に転がる日本人形

 

Göteborg 美術館でLilla Suzanneの絵と反対側の階段室にはカールの自画像
(Foton:Yoshiko Miyata/juli.30,2014)
   
  Sundborn村のKonsthallen Kvarnen
(昔の粉ひき所を活用した水車小屋ギャラリー)
で2015年、2016年夏に開催されていた
”Tocken Carl" という企画展の
ポスターにも使われています。

「Göteborg美術館所蔵のカール・ラーション作品集」という本の表紙もこの絵です 


水車小屋ギャラリー内部

毎年カール・ラーション一家を
テーマにした企画展が開催されています
 
カール・ラーションの家系図



 


 
カール・ラーションの作品をご覧になるためのリンク先

「ウィキペディアのカール・ラーション」のページ

カール・ラーション・ゴーデン公式ホーム・ページ

テレビ東京の「美の巨人たち」シリーズの2006年2月18日放映の「カール・ラーション」という番組で詳しく取り上げられています。
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/data/060218/
 
 
カール・ラーションの作品を見られるところ
  • ストックホルム国立美術館
  • ストックホルム、ユールゴーデン島の「Thielska Galleriet  ティール美術館」
  • ストックホルム、ユールゴーデン島ヴァルデマス・ウッデの「Prins Eugen(エウシェン王子)美術館」
  • イェッテボリ美術館
  • スンドボーン村肖像画展示館(「カール・ラーション・ゴーデン」のページの地図の(22)のところ)
  • ファールンのダーラナ博物館
  • その他
    
それぞれの美術館の詳細については「連絡先」ページのアドレスまでメールにてお問い合わせください。


 
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